第120章 昔の恋を忘れられないんだから、泥沼にならないわけがない

中野航平が根気よく息子を言い聞かせている頃、会社へ戻った高野咲子は、長谷川栞へ報告を入れていた。

「蓮くん、栞さんが私に持たせたって知った瞬間、目がぱあっと輝いて。顔の嬉しさ、隠しきれてませんでした」

「……そう」

長谷川栞は、感情の読めない声で短く返す。

その一言で、高野咲子の背筋がひゅっと冷えた。

栞の表情をそっと窺いながら、恐る恐る訊く。

「栞さん……嬉しくないんですか?」

「私が、どうして嬉しいの」

長谷川栞が、淡々と問い返した。

「え……」

高野咲子は言葉に詰まる。虫の知らせで、栞がこんな反応をするはずがないと思ったのに。

「もういいわ。行って。今後、中野航平...

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